宝石の神秘

宝石の歴史は古く、人は古代から綺麗な色のついた石に穴を開けてペンダントにしたり、耳に飾ったりしてきました。それは美しさを誇るだけではなく、宝石の輝きに神秘の力を感じて、その超自然的な力によって身を守ったり自らに力をつけようとしてのことでした。宝石の輝きや、その堅牢さ、時間が経っても劣化しない永続的な美しさに、人知の及ばない力の存在を感じていたのです。
そういった神秘的な気持ちを投影してか、神話の中にも宝石は様々な形で登場します。ギリシア神話では美の女神アフロディテが生まれた時にこぼれおちた海の泡が真珠になったのだと語られ、アーサー王と円卓の騎士団が求めた聖杯はエメラルドでできていたという伝説があります。また、ノアの箱船では、洪水の中を箱船がさまよう間、闇を照らす明かりとしてルビーが使われていたとも言います。
宝石はたいへんに堅牢な物質ですので、人の手から人の手へと渡りながら、何百年、何千年と輝きつづけます。大きな宝石や美しい宝石たちはその時々に権力者の手に渡り、その輝きで王族や裕福な人々の権威を増してきました。それは、時に人々の羨望や尊敬を集める一方で、時に災厄をもたらす存在でもあったのです。「黒太子のルビー」と呼ばれる赤い宝石は王室の守護石として今でもイギリスの王冠の中心で輝いていますが、「アントワネットの首飾り」として現代に名だけが残るダイヤの首飾りは、王妃の名を騙った巨大な詐欺事件に使われ、このスキャンダルがフランス革命のひとつのきっかけになったとも言われています。
あまりにも美しいものを見ると、人は神聖さとともに不吉さを感じるのでしょうか。巨大なダイヤモンドにはしばしば「呪い」のような不可解な不幸の話がつきまとい、後世に語り継がれています。その中でも最も有名なホープダイヤモンドは、今はアメリカのスミソニアン博物館にありますが、博物館に寄贈されるまで持ち主に次々と不幸をもたらしたと言います。一説によれば、首飾り事件に巻きこまれたマリー・アントワネットもかつてこのブルーダイヤを愛でたと言い、革命によって王妃の身分を奪われた彼女は断頭台の露と消えてしまいます。フランス革命で滅んだブルボン王家は、ほかにも悲劇のダイヤモンドとして名高い「リージェントダイヤモンド」も所有していました。それだけの富と繁栄を持ちながら、歴史の流れに巻きこまれて一家は断頭台に消え、これらの宝石たちも散逸してしまったのです。
不幸や破滅を、果たして宝石が招くことはあるのでしょうか。その答えはわかりませんが、ホープダイヤの青白い神秘の輝きがかつてマリー・アントワネットの美貌を照らしたのかと思うと、長い時間を変わることなく輝きつづける宝石に、神秘的なものを感じずにはいられません。この先も、宝石たちは新たな伝説を生みながら、人の命よりずっと長い時間を輝きつづけていくのでしょう。