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呪いは存在するか

宝石に「呪い」はあるのでしょうか。たとえば、持ち主に不運を引き寄せたり、持つ者の力を吸い取ってしまったり、負のエネルギーをつたえるようなことは可能なのでしょうか。その答えは分かりませんが、世の中には様々な「呪いの宝石」が存在してきました。王家や王朝の滅亡をくぐり抜けてきた宝石は決して少なくありません。
それも思えば当然の話で、昔は高価な宝石を持てたのは王や王妃、もしくはそうした支配者の血縁者がほとんどだったため、王が殺されたり王朝が滅ぼされたりすれば、彼らの持つすべての宝石が「持ち主の死」や「王朝の滅亡」をくぐりぬけることになります。宝石はその高価さゆえに、しばしば名のある持ち主から持ち主へと渡り、権力や金のもめ事にまきこまれて、奇異な運命をたどっていきます。そしてその堅牢さゆえに、物語や呪いの噂を溜めながら、人の人生の何世代にもわたって長く輝きつづけるのです。
勿論、幸福な持ち主もいた筈です。宝石を得たことで幸せになった人もいた筈です。それでなければいくら美しくとも、宝石を身に付ける人などいずれいなくなってしまいます。しかし、後世に残るのは幸福な物語よりも不幸な物語、人を驚かせるような災厄や、死の物語です。歴史のある宝石に、多かれ少なかれ「不吉」だとか「呪い」だという噂がまとわりつくのは、むしろ当たり前なのでしょう。奴隷が自らのふくらはぎに隠して鉱山から盗み出したというリージェントダイヤモンドにも不幸をもたらすという噂は当時からつきまとっていましたし、オルロフダイヤモンドにはついに女帝の寵愛を取り戻すことができずに失意のまま亡くなった男の悲嘆がまとわりついています。コイヌールには次々と悲惨な死をとげた王族たちの物語が伝わっています。
様々に不吉を語る宝石の中で、「呪いの宝石」と言えば誰もが思い浮かべるのが「ホープダイヤモンド」ではないでしょうか。かつてルイ14世が買い求め、フランス革命によって存在が一度は歴史から消えたこの石には、多くの真偽さだかでない「呪い」の物語がまとわりついています。博物館に寄贈されるまで、持ち主を次々と破滅させていったという物語はあまりにも有名です。カット職人が息子に殺され、息子も自殺したという話や、持ち主の息子や夫、娘が次々と命を落としていく物語は鮮やかで、人々の心を掴みます。誇張されたエピソードもありますし、真偽が定かでない話、こじつけに近い話もあります。真実がいかなるものであるにせよ、ホープダイヤモンドの冷え冷えと青い輝きを見た時、人はその美しさとともに、忌まわしい因縁の絡み合った物語を思い出さずにはいられません。それもまた、宝石の持つ美しさのひとつだからです。