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  • 歴史の中の宝石たち

時を超えた輝き

かつて王族や貴族たちはこぞって宝石を身に付けました。それは身を守ったり神秘的な力を得るためのひとつの方法でもあり、やがては人に自分の持つ富を見せるための手段となりました。君主たちは、大きな宝石や貴重な宝石を身につけて見せることで、自分の「力」を他人に示したのです。それはただの贅沢ではなく、いつ権力の座から引きずり下ろされるかもしれない彼らにとって、己の持つ力をはっきり見せつけておくことは、権力を保つ大事な手段でもありました。
歴史の中には、様々な宝石たちが姿を見せています。王族や貴族の肖像画を見れば、彼らが身に付けていたいくつもの装飾品を見ることができます。その中のいくつかだけが、今に至っても名が残り、歴史をくぐり抜けてきた姿を現代の人々に見せてくれるのです。歴史の中で失われてしまった宝石も多く、マリー・アントワネットが詐欺事件に巻きこまれた、贅を尽くしたダイヤモンドの首飾りがどのような輝きだったのか、今では想像することしかできません。クレオパトラの真珠は、ひとつは酢に溶かされてしまい、ひとつはローマに持ち帰られて割られてしまって、王国に匹敵すると言われたほどの真珠の輝きのどちらも現代には残っていません。宝石は永遠ではないのかもしれませんが、それらの宝石が歴史の中で放った輝きは、物語の形で今なお語り継がれています。

ウジェニー・ブルー

歴史を持つ宝石は、人の心を惹きつけます。物語の価値が加算されて、本来の宝石以上の値がつくことも珍しくありません。そのため、しばしば宝石の来歴を騙ったり、さもありげな歴史的な物語をつけ加えることもよく行われてきました。
1910年、カルティエが顧客に売ったハート型の31カラットのサファイアブルーのダイヤモンドについて、かつてフランスのウジェニー皇后のダイヤモンドであったという噂が流れます。しかしそのダイヤモンドがカットされたのは、夫であるナポレオン3世とともに皇后がイギリスへ追放されてから40年あまりたってからのことで、零落した彼女にそのダイヤモンドを所持するだけの余裕はなく、歴史的にその噂は真実ではないと思われます。しかし、噂は消えず、やがてアメリカのとある女性に売られた時にはダイヤモンドには「ウジェニー・ブルー」という名がもっともらしくつけられていました。この女性はダイヤモンドをスミソニアンに寄贈し、今でもこのダイヤモンドは「ウジェニー・ブルー」という名で呼ばれています。
宝石は自らは何も語りませんが、だからこそ人はその輝きの向こうに、己の知らない幾百年も前のことを重ねます。たとえウジェニー・ブルーと呼ばれたダイヤモンドが皇后ウージェニーの物ではないとしても、それは遠い昔の誰かの手がふれ、誰かが愛した宝石なのです。